浪人仁さんふらり日記

殺陣好きの役者にござる。拙者が興味を持った事を江戸言葉を交えながら記述致すでござる。

仁さん夢物語 弐 のねずみ。

本日も晴天。まるで初夏の陽気でござる。
昼過ぎにふらりと散歩に出かけたのだが、いや誠に暑かった。
ぶらぶらとあちこち歩きまわり長屋についたのは夕刻、暮れ六つ(午後六時)だったのでかれこれ二時(四時間)ほどふらふらしていたようじゃ☆
何日かふらふらしているうちに話がまとまったのでここで再び拙者の夢物語を一説。

ちょ~ん(拍子木の音)

時は亥の刻(21時~23時頃)江戸の夜は真っ暗である。
と、暗闇の中から鼻歌が聞こえてくる。拙者である。
この日は月に一度、先見屋が酔狂で拙者に(何故か)御馳走をする日となっている。誠に有難い事である。うまい酒と肴をたらふく胃の腑に納め上機嫌で家路についたところである。
仁『♪よ~あ~け~の~ば~ん~につ~ると・・・つ~ると・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
先『亀』
仁『か~めがす~べった~♪おえ~。』
先『旦那~飲み過ぎですよ。一人で二升も空けちゃうんだもんな~もう。ほら旦那、しっかりしてくださいよ。』
仁『いや~すまんすまん。どうにも気分が良くてのお。ついつい重ねてしもうた。先見屋、許せ。』
先『そりゃよござんした。』
仁『ういっく。うしろ~の~・・・しょうべん。』
先『小便って、ちょっ・・旦那。あ~あ。』
川に向かって用を足しながら。
仁『これが本当の、か・わ・や~。だっはっはっはっ。』
先『蹴落としてやろうかな。』
『ピーーーー!』
突然闇を切り裂き呼子が鳴り響く。次いで『御用だ!』と言う捕り方達の声が聞こえてきた。
先『何かあったみたいですね。』
仁『ふん。無粋じゃの。』
そこへ同じ長屋に住む目明しの伝吉が数人の捕り手を連れて走り込んできた。
伝『おう先見屋。春風の旦那もご一緒で。ひょっとしてこれですかい。』
伝吉は酒を飲む仕草をした。
仁『まあそんなところだ。で、伝吉親分。何かあったのか。』
伝『へい。『のねずみ小僧』が出やがったんで。』
先『のねずみ小僧っていうとあの『鼠小僧』の偽物の。』
伝『おうよ。そいつがつい先刻、この先にある米問屋『こめや』に盗みに入りやがったんでい!』
先『ああ、あの大店の。』
伝『おっとこうしちゃいられねえ。それじゃ旦那。急ぎやすんでこれで。野郎、逃がしゃしねえぞ!』
そう言い残すと伝吉は捕り手を連れ慌ただしく駆けていった。
先『こめやさん大変だな。ま、裏じゃ悪どい事もやってるそうだし自業自得ですかねぇ旦那。』
仁『飲み直しじゃ。参ろう。』
先『えええ、まだ飲むんですか⁉』
川沿いをしばらく歩くと木戸に着く。時刻は子の刻(深夜0時)を過ぎているので町に入る木戸はすでに閉ざされている。番小屋の番太をたたき起こしいくらかの駄賃を(先見屋が)渡し通してもらう。これも何時もの事である。
大通りをしばらく進み途中右へ折れ裏通りを行くと長屋に辿り着くのだがそこで異変が起きた。
裏通りに入ったところで右手の塀を乗り越え路地へ降り立つ黒い影を見た。猫ではない。黒装束にほっかむり。小脇には先ほど『こめや』から盗んできたであろう千両箱を抱えている。成程。これが噂の『のねずみ小僧』か。
のねずみ小僧がこちらに気づき逃げようとするが鋭い声がその動きを制する。
仁『待て!動けば斬る。(かっこいいー!)』
先ほどまで酩酊(めいてい)していたとは思えぬほど拙者の気力は充実し殺気が漲(みなぎ)っている。
仁『お主がのねずみ小僧じゃな。会わねばどうという事も無いのじゃが、おうてしもうたからには仕方がない。大人しく番屋までついて参れ。さもなくば。』
拙者は刀の鯉口を切った。
の『おっかねえなあ。知ってますぜ旦那。この先の長屋に住んでる春風様でございやしょう。何時もは気さくなお人好しで到底侍にゃあ見えねえが、いざとなりゃめっぽう剣の腕が立つそうで。』
仁『いやいやそれほどでも♡♡♡』
の『いまだ!』
一瞬の隙をついてのねずみ小僧が逃げようとしたその瞬間!気合いとともに拙者の刀が鞘から放たれた。凄まじい斬擊だがそこにはすでに『のねずみ小僧』の姿は無く虚しく空を斬っただけであった。
先『もーーーー、なにやってんですか旦那!のノ字(のねずみ小僧)に逃げられちまったじゃないですか!』
仁『だって久しぶりに褒められたから嬉しくなったんだもん。』
先『旦那のドジ!阿呆!間抜け!』
仁『あう、あう、あうう~・・・』
先見屋の言葉に拙者はたじたじである(´;ω;`)ウゥ。
の『あっはっはっはっ。旦那、噂通りのお人ですね。気に入りやしたぜ。』
いつの間に登ったのか、のねずみ小僧は火の見櫓の上にいた。
仁『たわけ!盗っ人に気に入られても嬉しくないわ!』
の『旦那とは一杯やりたいもんですね。それじゃ、あっしはこれで。』
仁・先『あ、待て!』
のねずみ小僧は颯爽と姿を
『ごおぉーーーーーーーーーーーん・・・』
江戸の夜空に鐘の音が響き渡る。
の『お、おぼえてろー』
そう捨て台詞を吐き、のねずみ小僧は闇へと消えていった。
仁『忘れられるか。こんな間抜け。』
先『・・・』
どうやらのねずみ小僧は目測を誤り櫓(やぐら)にぶら下がっている『半鐘(はんしょう)』に頭をぶつけたようだ。盗っ人のくせに間抜けな話しである。
またどこかで呼子が鳴っている。

ちょ~ん(拍子木の音)

では今宵はこのへんで。
これにて御免☆

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