浪人仁さんふらり日記

殺陣好きの役者にござる。拙者が興味を持った事を江戸言葉を交えながら記述致すでござる。

仁さん『夢物語』十五 のねずみ小僧再び

十五夜・紅葉・虫の声。
もっぱら拙者は"食欲の秋"
うおおおおおおお『焼き芋』食いてえぇーーー!
誠に秋とは良き季節でござる☆

然らば『夢物語』始まりでござる☆

ちょ~ん♪(拍子木の音♪)

盗っ人はお勤め(盗っ人働き)をする時『新月の夜』を選ぶ。
月のない闇夜がその姿を隠してくれるからだ。
『のねずみ小僧』も例にもれず新月の夜に好んで仕事をする。
拙者は今、問屋が立ち並ぶ通りの裏路地に身を潜めている。ここからは油問屋『高田屋』の裏手が良く見える。
いつもべったりくっついている座敷娘は昨日の酒が祟って床から出れないでいる。二日酔いとはあきれた妖怪である。
話しを戻す。
盗っ人と言うのはおおよそ裏手から忍び込み裏手から出ていくものである。中にはあらかじめ手下を店の使用人として潜り込ませ手引きをさせる賊もいるが、やはり堂々と表から入ることはない。
あ奴(のねずみ小僧)はやりそうだが・・・。
源『旦那。』
いつの間に来たのか拙者のすぐ後ろから源七が声をかけてきた。
仁『源七か。』
源『へい。大分冷えてきやしたんでこれを。』
そう言うと竹筒を差し出した。熱燗である。いったいどこから調達してきたのか。兎に角気の利く男である。
仁『これはありがたい。何時もすまぬな。』
源『なにをみずくせえ。』
初秋とはいえ夜は冷える。こんな時体を温めるにはこれが一番である。
源『それじゃあっしはあちらへ。』
源七は静かに闇へ消えていった。反対側を見張るためである。しかし今の身のこなし・・・
仁『まさか。』
まあ裏稼業の男である。盗人の真似事ができても不思議ではない。
時刻は子の刻を過ぎたころか。いっそう寒さが増してきた。
現れるとすれば・・・。
酒『春風さん。』
拙者はびくっとした!
振り向くとそこには南町同心 酒井なんとか(名前忘れた。)が不思議そうにこちらを見ている。
仁『お!これは酒井殿。如何された。』
酒『見回りです。春風さんこそなにしてるんです。まさか!お金に困ってついに盗っ人を☆』
・・・どこか楽しそうである。
以前"よめ(座敷娘)"の騒動の折、祝いを持ってきた同心がこの男である。
年は二十一、二で役人にしては珍しく陽気でさっぱりしている。
仁『(本当の事を言うと面倒なことになるな。そうだ!)実はうちの”ねこ(ヘンテコな生き物)”がいなくなってな。捜しているところだ。』
酒『あ~、あのふさふさの。そりゃあ大変ですね。私はまた”のねずみ小僧”でも探してるのかと思いましたよ。』
仁『⁉(どきっ)』
酒『でるんだよなーこんな真っ暗な夜に。じゃあ私はお役目がありますので。猫ちゃん見つけたらお報せしますね☆』
仁『すまぬな。』
酒『春風さんも”のねずみ小僧”見かけたら報せて下さいね☆』
仁『心得た。』
酒『”ねずみ捜し”に”ねこ捜し~”。あははははは☆』
へんな奴だ。
しかし二度も背後をとられるとは・・・修行が足りんな。
の『旦那~ひでえじゃねえですかい。』
再びびくっ!!!とした。
みると屋根の上から"のねずみ小僧"が顔を出している。
の『あっしと旦那の仲じゃねえですかい。それを役人に報せるなんざ。これじゃあ義理も何もあったもんじゃねえや。』
仁『それはお主の返答しだいじゃ。』
の『へ~。何をお聞きになりたいんで?』
仁『そこでは話しづらい。降りて参れ。』
の『お断りいたしやす。』
仁『何。』
の『今夜の旦那は何時もの旦那じゃねえ。降りたとたんにバッサリやられちゃかなわねえや。』
仁『・・・。』
の『で。何があったんです。』
仁『お主。正宗を知っておるか?』
の『伊達様の事で?』
仁『違う。』
の『酒?』
仁『違う!』
の『愛宕の正宗?』
仁『違う!誰だそれ!』
の『あっしの幼馴染で。』
仁『知らんわ!』
の『え~どちらの正宗さんですかい?』
仁『刀だ刀!大業物筆頭名刀正宗じゃ。』
の『・・・刀って名前があるんですかい⁉知らなかった。』
仁『嬲るか。』
の『ちょいと待っておくんなさいよ。そのなんとかっていう刀が一体どうしたってんですかい?』
仁『三年前、西方のある国から盗まれた。その刀を探し求め江戸までたどり着いた者がおる。』
の『はっ。刀一つに三年たあ恐れ入り谷の鬼子母神だぜ。』
仁『その者の言うには手掛かりは一つ。刀を盗んだ賊を追っていた者が言い残した言葉『のねずみ』』
の『!』
仁『今一度問う。正宗を知っておるか。』
の『存じやせん。』
仁『誠か。』
の『・・・』
冷たい夜風が二人の間を吹き抜ける。
のねずみ小僧はふわりと路地へと舞い降りた。
の『旦那あっしはね。盗っ人なんざやっておりやすが旦那にだけは嘘はつかねえって心に決めておりやす。正宗なんて刀ぁ見た事も聞いた事もねえが信用できねえってんなら仕方ねえ。(背を向けどんと胡坐をかく。)斬って下せえ!』
仁『・・・』
の『どうした旦那。遠慮はいらねえ。バッサリやっておくんなさい!』
仁『・・・いやすまぬ。人違いじゃ。』
の『・・・よかった~!ほんとに斬られたらどうしょうかとひやひやしましたぜ。』
仁『・・・(徐に抜刀。)』
瞬間、のねずみ小僧はひらりと屋根へ飛びあがった。
の『おおっとあぶねえ。ついでに言うとあっしは生まれてこの方江戸を出たこたございやせん。それにこの稼業始めたのはここ一年ばっかりのこと。あっしを捜してたってお人にゃわりいが人違い、いや野鼠違いでございやすよ☆』
仁『お主の他に“のねずみ”がおるのか?』
の『さあてね~。それじゃあっしはこれで。そのうちまた(酒を呑む仕草)うかがいやすんで』
そう言うとのねずみ小僧は闇の中へと姿を消した。
源『旦那。今のは。』
仁『のねずみじゃ。』
源『ええ!とっ捕まえないんですかい!』
仁『用は済んだ。行くぞ。』
源『ちょっ、旦那待ってくだせえよ。』
のノ字でないとすると正宗を盗んだ賊は一体何者なのか。
この事を片桐にどう話せば良いか。
う~む、困ったの~。
それにしても。
一晩に三度も背後をとられるとは。全く以て情けない・・・。面目丸潰れである。

次の日。拙者は真実を話すべく片桐を訪ねた。
仁『御免。片桐殿、おられるか。』
・・・返事が無い。
仁『片桐殿。』
片『は~・・・・い。』
なんだこの虚ろな返事は・・・
中に入るとまるで抜け殻のように項垂れる片桐の姿があった。
仁『片桐殿如何された。』
片『これを・・・』
片桐は文を差し出した。
仁『拝見いたす。』
それにはこう書かれてあった。
“正宗って刀をお探しのお方へ。
生憎あっしはお捜しの野鼠じゃあございやせん。仔細は春風様におたずね下さいまし。全て御存知でございやす。
この刀は餞別でございやす。こいつをもって国にお帰んなさいやし。
                          のねずみ小僧 ”

仁『片桐殿、これはいったい。』
片『目が覚めたら枕元に置いてござった。』
仁『さようか。』
片『春風殿。この文に書かれていることは誠にござるか。』
仁『残念ながら。』
片『さようでござるか・・・』
仁『して、刀とは?』
片『これにござる。』
刀を抜くと文字が刻まれてあった。

“ニセマサムネ”

あの馬鹿!

同じ頃。
浅草寺境内から一人の旅の僧侶が出て来た。
身なりは僧侶のそれだが余程長旅だったのか裾はすり切れ袖もボロボロである。首からは大きな数珠をぶら下げ頭には穴の開いた饅頭笠を被っている。
手に錫杖を持つのが普通だが異様なことに背中に刀を背負っていた。
僧『ほおー。久し振りに帰ってみりゃ、とんでもねえのが棲みついてるみてえだな。』
その目には狂気にも似たものが宿っていた。

ちょ~ん♪(拍子木の音♪)

この続きはまた次回!
これにて御免☆