浪人仁さんふらり日記

殺陣好きの役者にござる。拙者が興味を持った事を江戸言葉を交えながら記述致すでござる。

拙者の合財袋(カバン)のなかには?

今週のお題「カバンの中身」
さて。
天高く馬肥ゆる秋♪でござる☆
たまには『お題』をやってみるでござるヽ(≧▽≦)/にゃー☆
拙者の合財袋のなかにはズバリ!大した物は入っていない。
まあ、あると便利で無くてもさほど困らない物でござるな。
然らば一つ一つ出してみよう。
まずは小さな外袋(ポケット)。
うむ。小さな落とし紙(ポケットティッシュ)が三つ出てきた。
次に腕時計。何故ポケットに?と思うでござろうが、分刻みの運動をする事があるゆえその時にあると重宝いたす☆
そして最期に小さなビニール袋。小物を買ったときやゴミをいれるのに必要でござる☆
では次に本体に参ろう。
大きめのビニール袋が三つ。
買い物をするときに必要でござる☆
滅多に使わぬが大きめの筆入れ。
中には『筆(筆ペン)』一つに『ボールペン』なるものが二つ。マッキーの大きいのと細っこいのが一つずつ。赤マッキーが一つ。
ハサミと消しゴムにシャープペンシルとその芯が一つずつ。
修正液が一つ。そしてハンコ☆
筆入れの中身はこんなところじゃな。
それとは別におそらくこれが一番重宝でよく使う『折り畳み式番傘(普通の傘)』である。
こんなところでござる☆
皆様の合財袋の中には如何なる物が入ってござるかな☆
ではまた次回☆
これにて御免♪

仁さん夢物語 二十五 

片『春風殿。釣りに行きましょう☆』
そう言って朝っぱらから拙者をたたき起こしたのはこの長屋に住む浪人・・・いや、何処かの家中の侍で片桐と言う者である。
藩の用意した屋敷より長屋暮らしが気に入っているらしい。
眠い目をこすりながらごそごそと釣り竿を手に例の池へと歩いて行く。
調子の良いときには2尺ほどの鯉が釣れるのだが普段は小振りの鮒二、三匹がせいぜいである。
片桐は何時ものように他愛もない話しを楽しげにしている。
そう言えば近頃家中の侍らしき者が片桐を訪ねては楽しげに話しをしているようだ。
片桐の人柄か人を惹きつけるのであろう。
片『春風殿。』
不意に片桐は真剣な面持ちになった。
仁『如何した?』
片『およめ殿との祝言はいつ挙げるでござるか?』
仁『ぶっ、祝言!?』
遠くで鯉が跳ねた。
片『如何にも。およめ殿との中をこのまま有耶無耶にしておくわけにはいかぬでござろう。』
仁『片桐殿、何を申される。前にも話したが、よめは知人から預かった娘でそのような仲では』
片『嘘でござろう。』
鋭い。どうした片桐。何時もと違うぞ。
片『お二人を見ておれば一目瞭然!誠に仲睦まじいことで。』
仁『いやいや、先程も申したがよめとはそのような仲では』
片『問答無用!漢なら潔くなされよ!』
いったいなんなのだ今日の片桐は。
はっ!?まさか・・・
仁『夫婦喧嘩でもなされたか?』
片『ふぐっ!?あ~!』
片桐はその場に泣き崩れた。
図星か。
聞けば昨晩酒のアテにめざしを食べていたところそれは明日の朝餉だと言われついカッとなり言い争いとなった挙げ句屋敷を叩き出されたそうだ。
片『拙者がそんなに悪いのか!たかが目刺しを一匹囓っただけで!それが屋敷から叩き出すほどの事にござるか!?』
下級武士の給金などたかがしれている。家計を切り盛りする奥方にしてみればたかが目刺し一匹と言えど一大事な事である。
が、そんなことで屋敷を叩き出すとは。
手厳しい奥方である。
その後も片桐の愚痴を散々聞かされ挙げ句飯屋で酒を奢り多少機嫌がなおったところで長屋に放り込んだ。
やれやれ。とんでもない一日であった。
仁『すまぬ。おそくなっ』
ごつ!(急須が拙者の頭に当たる音)
仁『な、何をする!?』
よ『何をするではございません!こんなに遅くまでいったい何処をほっつき歩いていたのですか!』
仁『いや、片桐殿と一緒に』
よ『言い訳無用!そこにおすわり下さい!』
このあとよめの小言を朝まで聞かされるハメになった。
厄日だ・・・

ちょ~ん♪
それではまた次回☆
これにて御免♪

謹賀新年☆

皆様あけましておめでとうございます☆
昨年拙者が“全力で遊んでみた♪”動画が一年がかりで完成致しましたでござる☆
“春風風味の特製動画☆”
どうぞお楽しみあれヽ(≧▽≦)/にゃー☆

動画はこちらから♪
    ↓↓↓
https://youtu.be/A6tFEKVUDMU

仁さん夢物語☆24 賊其の弐

先日通り掛かった荒ら屋の壁に“梅改めよ”と書いてあった。
梅干し屋さんだったのかな~と思いながら通り過ぎた。
しばらくして、『あ、悔い改めよ』か☆
と、気付く。
うむ。今日も天下泰平でござるヽ(≧▽≦)/にゃー☆

では『夢物語』はじまりはじまり~☆
ちょーん♪(拍子木の音☆)

仁『静だな。』
月明かりに照らされた庭を眺めながら熱い茶を啜っている。
ここは呉服問屋『錦屋』の奥座敷である。
ひょんな事から用心棒をするハメになった。
それもこれも全てはあの賊のせいである。さっさと捕まってしまえ。
座敷娘はいない。
大の仲良しである錦屋の娘のところに挨拶に行くと言ってそれきりだ。
昨夜は拙者の話し相手になると来たくせにやれやれである。

それにしても流石は錦屋。見事な庭である。

とたとたと軽妙に廊下を誰かが歩いてくる。
この足音。どこかで聞いたことがあるような・・・。
と。奥座敷の障子が勢いよく開いた。
先『あーいたいた♡旦那ー♪』
仁『ぬ!?先見屋。なぜお主がここに???』
先『いやー、およめちゃんから春風の旦那が錦屋の用心棒してるって聞きましてね。』
仁『よめから。』
先『ええ。寂しそうだからよろしくって♪あ。これ差し入れ♪』
座敷娘(よめ)め。誰のお陰でこうなったと思っているのだ。
拙者は座敷娘に問答無用で用心棒をさせられているのだ。(それもこれもあの忌々しい賊のせいだが。)
それは兎も角、流石は先見屋。差し入れとは気が利く♪
その夜は未来国の話で大いに盛り上がった☆

次の日。
先『旦那ー☆珍しい人連れてきましたよー♪』
片『春風殿、お久しぶりでござる♪』
仁『片桐!?、どの。なぜお主がここに!?』
先『さーのみましょー♪あ、旦那はだめですよ。用心棒だから☆』
仁『待てまて!酒より片桐殿がなぜ・・・』
先『片桐さん、早く座って座って♪』
片『春風殿、お邪魔いたす♪』
仁『いや、なぜお主がここにい』
先・片『かんぱーい♡』
仁『・・・』

またまた次の日。

佐『かーうめぇ!流石は大店の錦屋さんだ。良い酒だぜ♪』
片『流石は江戸っ子。良い飲みっぷりでござる☆』
先『さあさあ遠慮はいりませんよ。どんどんやっちゃって下さい☆』
佐『すいませんね春風の旦那♪あっしまで御相伴にあずかっちまって♪この先見屋の旦那にばったりあっちまったのが運のつきでさー♪♪♪』
仁『・・・』
この者は大工の佐吉。拙者のいる長屋の住人である。
拙者は用心棒をしているのだが、なぜか酒宴になっている。拙者をぬきにして。
やれやれ。

またまた、また次の日。

さ『春風の旦那。陣中見舞いに来ましたよー☆手ぶらじゃなんなんでみんな手料理持ってきたんですよ。』
この女は“おさき”。佐吉の女房である。
その後ろに長屋の連中が犇めいている。
さ『さあさ、みんな。入った入った☆』
呉服問屋錦屋は今や宴会場になっている。
そして狂乱の宴が始まった。
拙者は用心棒をしていると言うのに・・・

そのまた次の日。

ドンチャンドンチャン♪
の『やす~ぅきぃ~♪♪♪』
佐『よっ!待ってました!やすきぶしの兄さん♪』
のノ字(のねずみ小僧)までまざっとる。
もう好きにしてくれ・・・
酒『賑やかですねー♪』
仁『ぬあ!?酒井!』
この酒井は南町の同心である。今頃は件の賊を引っ捕らえるために江戸中を血眼になって駆けずり回っている、はずである。
酒『あ~この煮物美味いな~☆里芋なんか絶品ですね♪』
仁『お主こんなところで何をしている!役目は、賊はどうした、賊は!』
酒『あー、その事ならもういいんです☆』
仁『もういい?どういう事だ???』
酒『実は昨日の晩、火盗改めが仕組んだ罠にまんまとひっかかってお縄になりました。』
仁『なに!それはまことか!?』
酒『ええ。廻船問屋の海屋に金塊があるって噂を流したんです。勿論火盗改めが仕組んだことですけど。それを真に受けて押し込んだところを御用。と言ってもあらかたそこで斬り捨てられ生き残ったのは“閻魔の源七”と言う頭目とその右腕の“橋三”の二人だけ。まあどちらも獄門でしょうけどね☆』
仁『そうか。捕まったか。』
酒『で、その賊なんですが、この錦屋さんを狙ってたらしいんです。』
仁『何、誠か!?』
酒『ええ。錦屋さんの間取りの絵図面がありましたから間違いないでしょう。ところが毎晩ドンチャン騒ぎしてるもんだから流石に凶悪な賊も押し込むに押し込めなくて、それでしびれを切らしてるところに海屋の噂を聞き付けてつい押し込んじゃったと。まんまと罠に掛かってあえなく御用。そんなわけです。あ、出汁巻き美味い♡』
仁『な、なんと・・・』
よもやこの錦屋が本当に狙われていたとは。
酒『さてと。じゃあ私はこれで。』
仁『うむ。わざわざすまなかったな。』
酒『いえいえ。錦屋さんに春風さんを用心棒にと推薦したのは私ですから。一応お耳に入れとこうと。あ、そうそう。そこのほっかむりの人。』
の・仁『(ドキッ!)』
酒『(ニヤリ)ドジョウすくいお上手だそうですね。今度ゆっくり見せて下さい。それじゃ♪』
そう言い残し酒井は鼻歌交じりで帰って行った。
のノ字(のねずみ小僧)は泥棒である。
一瞬、のノ字となぜか拙者も、ばれたかと思いドキッ!とした。
まったくこの酒井という男。何とも掴み所が無い。

ドンチャンドンチャン♪

にしても、このドンチャン騒ぎが功を奏するとは。世の中面白いものよな☆
拙者としては用心棒のような血生臭いことよりこちらの方がよいが。
なんにしてもこれでまた平穏な日々が戻ってきたわけだ。

仁『拙者も一杯やるか。』
よ『何を仰せです!春風様はお酒は駄目です。用心棒としての自覚は無いのですか。』
先『そうそう、およめちゃんの言うとおり☆旦那はお茶で我慢して下さい☆』
仁『用心棒はしまいじゃ。いましがた南町の酒井殿が来て賊はお縄になったと知らせてくれた。』
一同『ええー!!!!!』
佐『それじゃ酒盛りは?』
先『終わりでしょうね。』
片『残念でござる~・・・』
先『と言うわけで最期の宴です。大いに盛り上がりましょー♪』
一同『おー♪』
なぜそうなる・・・
まあ取り敢えずは一件落着である☆

ちょ~ん♪(拍子木の音♪)

ではまた次回☆
これにて御免♪

仁さん夢物語☆二十三 賊

皆様ごきげんよう
お元気でござったか?
拙者は何時もの如くバタバタとしていてふと気づけば夏も終わりもう秋!の、はず(陽射しが強い☆)。
やりたいことの半分もできず『ぼけ~☆』と空を眺める今日この頃でござる( ´∀` )ぼけ~♡
然らば
『夢物語』
始まりでござる☆


錦『春風様。どうぞお召し上がりください。』
そう言い膳を運んできたのは錦屋の主(名は忘れた)である。
膳には酒とアテにしては豪華な御造りがのっている。
拙者はゴクリと唾を飲み込んだ。
仁『心遣い忝い。折角だが酒を飲んで後れを取ったとあっては面目がたたぬ。これは遠慮いたそう(涙)かわりに茶をくれ。』
錦『これはわたくしとしたことが。すぐにご用意を。』
そう言うと錦屋の主はそそくさと膳を下げていった。
ここは錦屋の奥座敷である。何を隠そう拙者は今、錦屋の用心棒をしている。というか、させられている。
話せば長くなるのだが、ここ最近、世を騒がせる盗賊が現れた。
賊は決まって大店ばかりを狙い恐ろしいことに人死も出ている。どうやら急ぎ働きで荒稼ぎをする乱暴な連中のようである。
急ぎ働きとは押し込み強盗の事である。
奉行所は勿論、火盗改め(火付け盗賊改め)も出張ってはいるが一向に賊の尻尾すら掴めない。
そうこうしているうちにまたしても賊が現れた。狙われたのはこの錦屋からそう遠くないところにある油問屋『あぶら屋』である。今度の所業は一番酷く主夫婦は勿論下男下女に至るまで皆殺しにされていた。
この事件を機に大店に限らずそれなりに繁盛している店は“用心棒”を雇いはじめた。町道場の師範や腕が立つと噂の浪人を先を争い雇いいれる。運良く大店に雇われれば金に糸目はつけぬし毎日豪華な食事でもてなしてくれる。雇われる側にしてみれば有難い事この上もなく、雇い手にしてみれば自らの命が掛かっているから必死である。
この話を聞き付け江戸中の浪人達が色めいた。自ら売り込みをする者もいるが、そう言う輩は大概食い詰め者で金と飯だけが目当ての為たいして働かない。剣の腕もからっきしでまことに嘆かわしい。
良くも悪くも“泰平の世”。侍が腑抜けになるには十分な緩さである。

さて、拙者の話しであるが。
別段金にも飯にも困っておらぬし賊は兎も角用心棒の話など何処吹く風ぞだった。
だったのだが・・・
☆ここから回想♪
今宵は仲秋の名月。天気も良さそうだし縁側で月を眺めながら酒でも飲むかとそんなことをぼんやり考えながら何時もの見廻り(散歩)から長屋に戻ると
よ『春風様!こんな大事なときに何をなさっておいでですか!』
・・・座敷娘にいきなり叱られた。
仁『何って何時もの見廻りじゃが。』
よ『こんな一大事に何を呑気な。さ、参りますよ!』
仁『参りますって何処へ???』
よ『錦屋様です。』
仁『錦屋?なにゆえ?』
よ『決まってます。用心棒です。』
仁『は?』
☆回想終わり♡

そんなわけでここにいる。
庭先から虫の声が聞こえる。
錦『お待たせ致しました。』
錦屋の主が茶を運んできた。
錦屋の目の下に隈が出来ている。おそらくはここ数日まともに寝ていないのであろう。いつ賊に狙われるか分からぬから致し方ないが。
錦『春風様が用心棒をして下さると聞いたときは本当に嬉しゅうございました。春風様がいて下されば鬼に金棒。これで安心して商いが続けられます。』
仁『・・・』
拙者が言い出したわけではないが。
錦『実は酒井様にも相談したのですがお役目の方が忙しく手が回らぬと言うことで。どうしたものかと思案したところ酒井様から用心棒を雇ってはどうかと言われまして。ですが私にはそんな当てもなく、そうしたら酒井様がすぐ近くにうってつけの方がいると春風様の名を。』
仁『・・・(酒井め)』
酒井と言うのは南町奉行所の同心で、ちょいちょい出てくる変わり者である。
錦『丁度そこにおよめさんが遊びに来られまして。』
仁『よめが。』
“よめ”とは拙者の家に棲みついた“座敷童子”の事である。座敷童子と言っても幼子の姿では無く十六、七くらいの娘の姿をしている。この座敷娘のお陰でいろいろと騒動があったがいまは落ち着いている。
錦『およめさんに用心棒の件をお話しすると二つ返事でご承知下さり『春風様は困っている人を決して見捨てたりはいたしません。すぐにつれて参ります。』と。いや~本当に安心致しました。春風様。改めて御礼を申し上げます。』
錦屋は深々と頭を下げた。
仁『そんなとこよりお主あまり寝てないのであろう。拙者のことは良いから休むがいい。』
錦『流石は春風様。まことにその通りで。賊が現れて以来心配で心配で、物音がするたびに目が覚めてしまって。』
仁『分かった分かった。後は拙者に任せ早く休め。』
錦『ありがとうございます。ではお言葉に甘えて。』
そう言うと錦屋の主は下がっていった。
やれやれ。そう言ういきさつであったか。

初秋とは言え夜は大分冷える。
障子を開けるとひんやりとした空気が流れ込みかすかに吹く風が虫の声をはこんでくる。
仁『いい月だ。』
空にはぽっかりと月が浮かんでいる。
まさかこんなことになるとは思ってもいなかったが、どうやら“仲秋の名月”は拝むことが出来た。
熱いうちに茶を頂こうと湯飲みに手を伸ばすとその横に山積みされた“とらやの羊羹”が!
流石錦屋。甘い物好きの拙者に大店らしい粋な計らい☆
では早速と湯飲みに手を伸ばす、手を伸ばす、手を・・・湯飲みがない???
よ『夜は冷えますね。こんな時は熱いお茶が一番。ね。春風様♡』
仁『うおっ!?よめ!いつのまに???』
先にも申したが“よめ”は妖怪座敷娘(童)である。
よ『お一人では寂しゅうございましょうからせめて話し相手にと思いまして。私も御一緒いたします。ね、春風様♪』
厄介事が増えた。


然らば今日はこの辺で。
これにて御免☆

ちょ~ん♪(拍子木の音)

仁さん夢物語☆二十二 覚醒

今年は空梅雨であろうか。雨は少ないが陽射しは強い。まことに暑い!
かき氷とやらが食べたくなる季節でござるな☆
熱中症なるものにはくれぐれも御用心、御用心☆

然らば、『夢物語』始まりでござる~☆
ちょ~ん♪(拍子木の音)

時刻は子の刻を過ぎている。
拙者の住む長屋は先ほどの賑わいはどこへやらしんと静まり返り時折どこからか大いびきが聞こえてくる。
みな騒ぎ疲れ、飲み疲れで深い眠りについているようだ。
が、拙者の家だけは違った。
座敷娘は気を失ったままで苦しそうに荒い息をしている。
医者にとも思ったが果たして人の医者が妖怪を診れるだろうか。
ねこ(ヘンテコな生き物)は心配そうに座敷娘の周りをぐるぐると回っている。(邪魔だ。)
それにしてもあのくそ坊主め!今度会ったらぶった斬ってやる!!!
よ『春風様・・・』
仁『よめ!大丈夫か?』
よ『申し訳ありません。ご迷惑をおかけして。』
仁『よい。気にするな。ほしいものはあるか?』
よ『お水を。』
仁『わかった。』
水瓶を見ると空っぽである。先ほどの宴で皆が飲み干してしまったようだ。
仁『すまぬ。汲んでまいる。』
よ『そんな。春風様に水汲みなど。わたくしが・・・』
仁『よいから寝ておれ。すぐ戻る。』
よ『はい。』
一月はまだ寒い。夜ともなると冷え込みは一層厳しくなる。
井戸で水を汲みながらふと空を見上げると天高く月が浮かんでいる。
仁『このままよくなれば良いが・・・』
なにせ風邪などとは違い怪しげな坊主の”術”が原因なのである。正体を現せとか何とか言っていたが何のことやら。
あの二人(河童と雪女)なら治せるかもしれぬ。明日にでも訪ねてみるか。
・・・。
何処にいるのだ⁉
まあそれは後で聞けばよい事である。今は早く座敷娘に水を飲ませてやらねば。
桶を手に戻ろうとしたその時、拙者の家から悲鳴にも似た叫び声が!
仁『よめ!』
戸を開けたとたん中から凄まじい妖気が溢れ出す!
あまりにも濃い妖気のせいで家の中がまるで霧に包まれたように真っ白になっている。
気を失いそうだ。
仁『ふんが!』
丹田に気合を込め何とか耐えた!
やがて充満していた”妖気の霧”が外へと流れ出し家の中の様子が見えてきた。
そこには、ねこ(ヘンテコな生き物)を鷲掴みにして佇む座敷娘(よめ)の姿があった。
明らかにいつもの座敷娘(よめ)ではない。その姿はどこか虚ろでいて妖艶さを増している。そのうえあの天真爛漫さとは打って変り目に見えるほどの妖気と凍てつくような鋭い殺気を纏っている。
恐らく常人なら見ただけで無事ではすむまい。拙者が(辛うじて)耐えているのが不思議なくらいだ。
様子からして先ほどの叫び声はねこ(ヘンテコな生き物)だな。
・・・ねこ(ヘンテコな生き物)は生きているのかどうか(あまり心配していない。)
仁『よめ、どうした!これはいったい・・・』
よ『・・・』
仁『よめ!』
座敷娘(よめ)は徐に閉じていた眼を開け拙者を睨みつける!
途端、拙者は金縛りにかかり身動きが取れなくなる。
仁『か・・・。よ、よ・・め・・・。』
座敷娘(よめ)は”ねこ(ヘンテコな生き物)”を投げ捨てるとふわりと宙に浮いていく。浮きながらその容姿は変化していく。
手足の爪は鋭く伸び口は耳まで裂け額に二本の角を生やしていく。その眼(まなこ)は真紅に染まり憎悪と殺気を漲らせている。
鬼である。

仁『よめ。』
天井まで浮かび上がった座敷娘(よめ)は物凄い形相で拙者に襲い掛かってきた!
よ『うがああああああ!』
仁『よめーーー!』
その時、拙者の横をすり抜け何者かが刀を抜き放ち飛び込んできた!
あの”くそ坊主”である。

ガキーン!

くそ坊主は間一髪、座敷娘(よめ。今は鬼。)の爪と牙を刀で受け止めた!なかなかやるな。
僧『ははははは。やっとお目覚めかい。待ちくたびれたぜ!』
くそ坊主は力任せに座敷娘(よめ。今は鬼。)を跳ね返した。再び宙に舞う座敷娘(よめ。今は鬼。)
僧『あ~あ。だから言わんこっちゃねえ。おとなしくあの娘を俺に渡しときゃよかったんだ、よ!』
ごつ!(くそ坊主が拙者の頭をぶん殴る音。)
仁『貴様なにをする!!!』
僧『がたがた言うない。動けるようになっただろ。』
は!確かに。
僧『礼なら後でいいぜ。』
誰が言うか!
僧『それよりこいつはまたとんでもねえなあ。ここまで強烈な”鬼”は初めてだぜ。』
仁『鬼。』
僧『はあ?見りゃわかんだろう。頭に角生やした女がどこに居んだよ。』
・・・確かに。
僧『さあて、こいつはちょいとてこずりそうだぜ。』
仁『待て!何をする気だ!』
僧『馬鹿かてめえは。退治するに決まってるだろ。』
仁『駄目だ許さん!』
僧『はー呆れたもんだぜ。お前さん今こいつに食われそうになったんだぜ。こんなの生かしといたらそこら中の人間がみーんな食われちまう。それでもいいのかい。』
仁『それもだめだ。』
僧『じゃ其処どきな。退治してやる。』
仁『それもだめだ。』
僧『・・・オン』
仁『ぬがっ⁉』
く・・・金縛りか⁉
僧『わりいな。あんたにかまってる暇ねえんだ。そこで見物してな。』
仁『(待てくそ坊主!座敷娘に指一本触れる事は許さん!)』
・・・金縛りで声が出ない!?
僧『待たせたな化け物。此の妖気。この殺気。おめえ闇から生まれた極上の鬼だろ。退治しがいがあるぜ。覚悟しな!』
拙者の目の前で法力と妖力がぶつかり合う凄まじい戦いが繰り広げられている。
拙者はただ成す術もなくその戦いを見守るしかなかった。
どしゃー!
僧『くっはーやるなコノヤロー!』
まあ、一方的にバカ坊主がやられているのだが。
僧『こうなったら俺の最強法力をくらわせてやる!』
最強法力⁉やめろ!嫌な予感がする!!!
僧『吹っ飛べ化け物!』
どん!!!!!
くそ坊主の法力炸裂。見事に天井はおろか屋根までぶち抜いた。(おい!!!)
片『春風殿ー!何事にござるか⁉』
今の音で流石に気付いた片桐が血相を変えて飛んできた。
片『やや!これはいったい!!!』
『なんだなんだ。』
『何の騒ぎだ。』
『うわ!なんだあれ!』
ようやく気付いた長屋の連中も、のそのそと集まってきた。あれだけの大騒ぎに気付かぬとはこの長屋の連中はいったい。
僧『ちっ。結界まで吹っ飛ばしちまったか。』
けっかい???けっかい・・・。な、なるほど。そういうことか。けっかいか。ははは(分かってない。)
座敷娘(よめ。今は鬼。)も流石にこれは効いたらしく息を荒くして座敷にしゃがみこんでいる。
僧『さあて、手こずらせてくれたな。これ以上騒ぎになるのは御免だし、終わりにしようぜ。』
くそ坊主は刀を構え呪文を唱え始めた。
片『春風殿!如何された!しっかりなされよ!あれはなんでござる!あの坊主はなんでござる!』
仁『か、かた・ぎ・・りどの・・』
片『春風殿!春風殿!!春風殿ー!!!』
くそ坊主の呪文で刀が金色に輝く。どうやら刀に“法力”を込めているようだ。
僧『さあ行くぜ化け物。往生しな!!!』
仁『よめーーー!』
拙者の刀がくそ坊主の一撃をすんでのところで受け止める。
僧『なんだあ。なんでてめえ動けるんだ。』
仁『気合いだ。』
いやいや。片桐が滅茶苦茶に拙者を揺り動かしたお蔭で金縛りが解けたのだ。首が痛い・・・。
『がぶっ!!!』
拙者の左肩に激痛が走り鮮血が飛び散る!
仁『んがっ⁉』
片『春風殿!』
見ると座敷娘(よめ。今は鬼。)が喰らいついている。
仁『よ、め・・・。』
僧『馬鹿野郎!化け物なんざ庇うからそんな目に合うんだ!今助けてやる!』
仁『手出し無用!』
僧『なにぃ⁉』
仁『手出し、無用だ。』
牙が食い込み骨が砕ける音が響く。
片『春風殿!』
仁『来るな!』
僧『・・・てめえ、死ぬ気か。』
仁『・・・そうじゃな。それも悪くない。よいか、よめ。拙者を食うて構わぬ。ただし決してほかの者には手を出すな。』
よ『・・・』
仁『食い終わったらあの二人(河童と雪女)のもとに帰るのだ。そこで静かに暮らすがいい。よいな。』
よ『・・・』
仁『ふふふ。おしかけて来た時にはどうしたものか困ったものじゃが・・・愉快であった。』
よ『・・・・・・・・・』
仁『ありがとう。達者でな。(そっとほほに触れる。)』
よ『!(春風様!!!)』

座敷娘(よめ。今は鬼。)の体が眩い光を放ちその姿を変えていく。禍々しい鬼から座敷娘(よめ)の姿へと。
よ『春風様。お礼を申すのはわたくしの方で御座います。何時もご迷惑ばかりかけているわたくしをお傍に置いて下さって。感謝の言葉もありませぬ。』
仁『よめ。』
よ『それなのに春風様にこのような、このような・・・わたくしの正体は鬼。人とは相まみえぬもの。これ以上春風様にご迷惑をお掛けする訳にはいきませぬ。里に戻ります。今までありがとうございました。』
そう言うと座敷娘(よめ)はふわりと天に舞い上がった。
仁『よめ!』
よ『春風様。さようなら。さようなら。』
座敷娘は夜空へその姿を消していった。
仁『・・・よめ。』
僧『はー驚いたね。化け物を改心させちまいやがった。やれやれ。お前さんのお蔭で商売あがったりだぜ。ま、いいか。退治するのもめんどくせえし。』
片『あー!その刀その刀はー!!!』
くそ坊主が手にしている刀を見て片桐が声を上げる。
僧『なんだーうるせえな。この刀がどうしたって?』
片『その刀こそは我が城から盗まれた『正宗』!お主その刀をどこで手に入れた⁉』
僧『あー。ああ、あんたあの城の?あの時化け物に錫杖折られちまってよ、ちょうどいいとこにこいつが落ちてたんでちょいと借りたんだ。よーく切れるから重宝したぜ。』
片『返せ!その刀を返せ!』
僧『はいはい悪かったな。ほらよ。』
僧は刀を片桐に無造作に投げ返す。
片『わー!!!』
僧『ところであんたの殿様、ネズミの化け物に狙われてたんだが何か心当たりはねえかい。』
片『鼠?あ!鷹狩をした折に野鼠を獲ったことがことがあったが、まさか!』
僧『やっぱりな。俺がいなけりゃ取り殺されてるところだ。生き物を玩具にしちゃいけねえよ。殿様によおく言っときな。じゃあな。』
そう言い残すとくそ坊主は去って行った。
片『よかった!誠に良かった!これでようやく国に帰れる!』
仁『片桐殿。念願叶いましたな。』
片『はい!ところで春風殿。』
仁『ん?』
片『傷は大丈夫でござるか?』
仁『あ。』
拙者はそのまま気を失った。

佐『春風の旦那、おはようございます!』
仁『おう佐吉。精が出るな。』
佐『へい。傷の具合はどうです。』
仁『だいぶ良い。世話をかけるな。』
佐『なあに。礼には及びませんや。そいじゃお大事に。』
佐吉は大工道具を肩に颯爽と仕事へと出掛けて行った。
それを見送り拙者もふらりと通りに足を運んだ。
座敷娘(よめ)がいなくなってから十日余りがたっている。
くそ坊主が吹き飛ばした屋根は佐吉のお蔭で元通りになった。まさか佐吉があんなに腕のいい大工だったとは驚きである。
片桐はと言うとようやく取り戻した『正宗』を手に喜び勇んで国元に帰って行った。東海道を西へと向っているはずだが今頃はどのあたりであろうか。
にしても。あれほどの騒ぎであったにもかかわらず皆気を使ってかあの日の事を口にする者は誰もいない。
錦屋の娘すみには座敷娘(よめ)は父親が病を患いその看病のために里帰りしたと伝えてある。あの父親(河童)が病などあり得ぬが。
心配なのは事の真相を知った先見屋(拙者が話した。)である。あれから相当な落ち込みを見せている。店の暖簾も出ていない。
やれやれ、どうしたものか。
ねこ(ヘンテコな生き物)も先見屋と似たようなもので縁側(と言うほどの物でもないが)で日がな一日ぼんやり空を眺めている。
何時もの様に町中をふらふらしているとたまに座敷娘(よめ)の事を尋ねるものもあったがそれには錦屋のすみに言った事とと同じことを言っている。
南町の同心酒井だけは意味ありげな笑みを浮かべていたが・・・。
たまにはねこ(ヘンテコな生き物)を元気付けてやろうとあ奴の好物の”あんころ餅”を買ってきてやった。元気になればよいが。
仁『今帰った。』
と言っても返事が返るでもないが。
よ『お帰りなさいませ。春風様♡』
仁『⁉』
よ『どうなさいました?早く中にお入りくださいまし。』
仁『お、お、お主、どうして・・⁉』
よ『はい。実はわたくし、里に帰る途中であの怖いお坊さんに捕まってしまいまして。』
仁『何!あのくそ坊主に!!!』
よ『はい。あんなに酷いことをしたのですから退治されても仕方が無いと観念したところあのお坊さん、もう二度とわたくしの中の鬼が目覚めないようにと封印を施してくださいました♡』
そう言って座敷娘は後ろを向き着物をはだけた。その背には梵字で封印の術式(よくわからぬが)が刻まれていた。
よ『あのお坊さん。案外良い方なのですね。』
・・・いや、絶対斬る!
よ『でも困りました。あのお坊さんは文字はそのうち体に吸い込まれて消えるとおっしゃっていましたがそれまで湯屋には行けませぬ。』
仁『!』
よ『仕方ないのでここで湯浴みを。春風様も御一緒に・・・』
ばたん!
拙者は外へと飛び出した。
よ『あら(くす)もじゃちゃんいらっしゃい。』

そうか。戻ってきたか。・・・そうか。

なぜか心が躍る拙者であった。

つづく。
ちょ~ん♪(拍子木の音)

ではまた次回☆
これにて御免!

仁さん 夢物語☆ 二十一 坊主

お待たせいたした―!!!
いや、私事にてしばしドタバタしたり現実逃避したり・・・
今し方ようやく『はっ⁉わたしはなにを・・・!!!』
と。正気に戻った次第。
まだまだ修行が足らぬな。
と言うわけで。
今から半年ばかり遡り続きと参るでござる!

さ~てお立合い!
『夢物語』久々の始まり始まり~、でござる☆
ちょ~ん♪(拍子木の音)

ここは拙者の家(長屋)である。
例の如く狂喜乱舞の宴が行われている。
先見屋、片桐をはじめ、佐吉に伝吉親分、南町の同心酒井、錦屋の娘すみ、ほかにも長屋の連中がとっかえひっかえ新年の挨拶に来てはそのまま宴に混じっている。この狭いところに。文字通り"鮨詰め"になっている。
その中に当然の様にあの"のねずみ小僧"もいる。
酒井(南町同心)と伝吉(岡っ引き)がいるにもかかわらずだ。
この"のねずみ"の周到と言うか小癪なところは『安来節(やすきぶし)』を踊りながら入ってきたことだ。
皆、酒も入っていたことだし大いに盛り上がりあっという間に人気者になってしまった。安来節とは考えたものだ。これなら頬被りをしていても誰も怪しまない。盗人のくせに岡っ引きの伝吉と馬が合うらしく肩を組んでわらべ歌を熱唱している。
まったく大した奴だ。
この宴が大盛り上がりなのにはもう一つ理由がある。
何時も娘が世話になっていると錦屋の主が上等の酒と御馳走を差し入れてくれたのだ。(世話になっているのはこちらの方だが)
これは誠に有難い。座敷娘(よめ)に感謝せねば。
錦屋の主は挨拶を済ませると大急ぎで立ち去った。新年の挨拶回りやなんやとてんてこまいのようだ。
大店ともなると大変じゃな。
さて、宴である。
時が経てばたつほどに大騒ぎとなった。これも何時もの事である。
みなが大いに飲み、食い、笑い。
酒をなめながら楽しそうにしている連中を眺めているだけで何か楽しくなってくる。実に良いものである☆
よ『春風様。どちらに行かれるのですか?』
仁『うむ。ちと飲み過ぎた。少し風にあたってまいる。』
よ『ではわたくしも♡』
佐『よ!ご両人!おあついね~☆』
先『あ~旦那ずるいですよ~。およめちゃん独り占めにして~ひっく。』
の『やかないやかない。さ、ぐ~といきやしょう☆』
先『およめちゃ~ん、早く戻ってきてね~。ひっく。』
よ『は~い♡』
男衆『うはっ!かわいすぎ♡♡♡』
男衆、心の臓を撃ち抜かれひっくり返る。
湧き上がる大爆笑。
その笑の中、拙者と座敷娘は外へ出た。
昼前に始まった宴だったが気が付けばもう日が傾き始めている。
初春とは言え寒さは厳しい。吹き抜ける風が身に応える。
河『おい。』
と、そこに河童(座敷娘の父)がいた⁉
仁『ぬあ!!!』
河『何が『ぬあ!!!』じゃ。わざわざ新年の挨拶に来てやったのに無礼な奴め。』
雪『仕方ありませんよ。あなたの顔は怖いですから。』
河『かあちゃんそりゃないよ~。』
よ『とおさま、かあさま!わざわざお越し下さったのですね☆こちらから参るつもりでしたのに。』
河『なあに新年の験を担ぐにはお前の顔を見るのが一番じゃと思うてな。そこのバカはどうでもいいが。』
・・・相変わらず嫌な奴だ。
このバカッパ(河童)と雪女は座敷娘の育ての親、である。まあ妖怪の世界も色々複雑だと言う事だ。
雪『ほらあなた。そんなことを言いに来たのではございませんよ。』
河『ああそうだった。この阿呆(拙者)の面を見たらついな。』
斬り捨ててやろうか。
河『ごほん。よめ。新年おめでとう。』
雪『おめでとう。』
よ『とうさま、かあさま。新年おめでとうございます♡』
河『おいそこのバカ。ぉ‥‥‥ぅ。』
仁『お?う?ん???』
河『ふん!』
ゴツ!(雪女が河童の頭を拳骨で殴る音。)
河『かーちゃん痛い!』
雪『申し訳ありません春風様。この人(妖怪)ひねくれもので。新年の挨拶に行こうと言い出したのはこの人(妖怪)なんですよ。なのにこの人(妖怪)ときたら。』
河『勘違いするな人間!わしは”よめ”に会いに来たのだ。お前などどうでも』
ゴツ!(雪女が河童の頭を拳骨で殴る音其之二)
河『〇X△※◇!!!』
雪『春風様。新年おめでとうございます。』
仁『うむ。おめでとうでござる。』
雪『これからも”よめ”のことよろしくお願いいたします。』
仁『心得た。』
河『人間。よめに手を出したら容赦せんぞ。』
仁『・・・(出すか阿呆)』
河『なんだその目は!人(妖怪)をバカにしたように見おって!このダメ左衛門が!』
仁『誰が”ダメ左衛門”じゃ!このバカッパが!』
河『このダメ左衛門め!皿割るぞ!』
仁『拙者に皿など無いわボケガッパ!』
河『だーれがボケガッパじゃボケ左衛門!』
雪『おほほほ。新年早々仲のおよろしい事で。』
仁・河『どこがだ!』
騒ぎに気付いたのねずみが中から声をかけてきた。
の『旦那~お客さんですかい?』
先『およめちゃ~ん、早く戻ってきてぇ~ういっく。』
の『あーもう。先見屋の旦那飲み過ぎですぜ。』
河『ふん。人間はいつでも騒がしいの。』
雪『さ、あなた。そろそろ参りましょう。』
よ『え~、もう行ってしまうのですか。折角来たのですから上がっていって下さいませ!』
雪『ありがとう。でもそうもいきませんよ。ほら。』
よ『あ。』
拙者は雪女の冷気にあてられ凍りついていた。
河『ふん。これだから人間には困るのだ。』
雪『あなたも半分凍ってますよ。』
そんなこんなで二人は帰って行った。
やれやれ。
朱に染まる夕焼けに、二人(?)の後ろ姿がにじんで見える。
座敷娘はいつになく寂しそうに見送っている。
仁『帰って良いのだぞ。』
よ『え・・・いえ。まだ帰りませぬ。』
仁『人の世よりあちらで二人(?)とともに暮らした方が良いのではないか?』
よ『なぜそのようなことをおっしゃるのです。私の事がお嫌いですか?』
仁『いやそのようなことは。』
よ『私はここに居たいのです。時が来れば帰ります。』
仁『・・・(時が来れば、か。・・・・・いつ???)』
よ『そう言えば!新年のご挨拶がまだでしたね☆』
仁『そう言えばまだだったような・・・』
よ『春風様。新年おめでとうございます。これからもよろしくお願いいたします♡』
仁『・・・ふ。新年おめでとう。こちらこそよろしくお願い致す。』

チリーン

鈴(りん)の澄んだ音が響き渡る。鈴(りん)とは僧侶の持つ小さな鐘のようなものである。
音のした方に目を向けると夕日を背にぼろぼろの法衣を着た旅の僧らしき姿があった。異様なのは背に刀を背負っていることだ。
仁・よ『?』
僧『さあて。そろそろ目を覚まさねえかい。お嬢ちゃん。くっくっくっくっくっ。』
そう言うと徐に懐から”独鈷”を取り出した。
ズザザザー!
ね『シャーーー!!!』
押し入れに閉じ籠っていたはずのねこ(ヘンテコな生き物)が勢いよく現れ坊主の前に立ち塞がった!
いままで聞いた事もない唸り声をあげ威嚇している。
よ『もじゃちゃん!』
仁『ねこ!』
僧『へ~、いつかのへんちくりんな奴か。折角見逃してやったのにわざわざ出てくるとは。まあいい。調伏してやる!喝!!!』
ズゴン!
ねこ(ヘンテコな生き物)は坊主の”法力”で吹き飛ばされた!
ね『ふぎゃ⁉』
よ『もじゃちゃん!!!』
仁『ねこ!貴様何者だ!いったい何の真似だ!』
僧『ははは。ただの坊主ですよ春風の旦那。』
仁『なぜ拙者の名を・・・ぬ⁉その背の刀。貴様が先見屋達の言っていた・・・。』
僧『旦那。その娘を私に下さいよ。』
仁『何。』
僧『わたしの生業はね、経を上げる事じゃない。化け物を退治することなんですよ。旦那もご存じでしょう。その娘が人じゃないって。だから私に下さいよ。』
仁『断る。』
僧『けひひひ。言うと思ったぜ。おいサンピン。その娘の正体知ってんのかい。』
仁『知らん!』
僧『へ。あはははは。まったく呆れた奴だぜ。いいかよおく聞きな。その娘はなあ、今でこそ美しい娘の姿をしちゃあいるがその正体はとんでもねえ化け物なんだぜ!』
仁『(今迄あった事を回想中)うん。知ってる。』
僧『そっちじゃねえ!』
よ『春風様!(怒)』
僧『ちっ、埒が明かねえな。手っ取り早くやるか。』
仁『やめろ!』
僧『オン!!!』
よ『きゃあああああ!』
法力の光が座敷娘を包み込む。
仁『よめーーー!』
僧『ははは。正体を現せ化け物ー!ははは!』
よ『(きょとん)』
仁・僧『え?』
僧『そ、そんな馬鹿な!この術にかかって正体を現さぬなど・・・』
仁『何ともないのか?』
よ『目が眩みました♡』
僧『えーいこうなったら!オン!おん!!ON!!!』
ピカッ!ピカッ!ピカッ!
よ『???(きょとん)』
僧『はあはあ。きょ、今日のところはこのくらいで勘弁してやる。さらばだ。』
そう言い残し僧は去って行った。
よ『あの方、わたくしのこと”美しい”と(ぽっ♡)』
仁『戯け!ほっぺた赤くしてる場合か!大丈夫なのか!』
よ『はい。なんともありません♡』
仁『ホントにホントだな!何ともないのだな!』
よ『うふふ。嬉しい。春風様がこんなに心配してくださるなんて♡』
仁『当たり前だ!あんな得体のしれぬ奴に術をかけられたのだぞ!何とも無い方がどうかしておる!』
よ『わたくし丈夫なのですね。感心感心☆あ!もじゃちゃん!』
ね『にゃ~♡』
ねこ(ヘンテコな生き物)は何時もの様に座敷娘に飛び付いて来た。
よ『よしよし。もお大丈夫だからね。』
仁『ふ~。それにしても』
あ奴はいったい・・・。
幸いこの騒ぎに誰も気付いていなかったのでそのまま宴に戻った。
座敷娘はまるで何事もなかったかのように何時もの様にはしゃいでいる。ねこ(ヘンテコな生き物)はと言うと、流石にまだどこか不安気で時折外を気にしている様子だ。
半日以上続いた宴もお開きとなりそれぞれ帰る場所へと消えていった。
しかし今日は疲れた。早く休むとしよう。
座敷娘は後片付けをしている。ねこ(ヘンテコな生き物)は押し入れで寝ているようだ。
仁『片付けは明日でよい。今日は疲れたであろう。もう休むとしよう。』
よ『はい。ではご一緒に♡』
仁『た、たわけ!いいから早く寝ろ!』
よ『うふふ♡』
まったく。心配してやっておるのに。やれやれだ。

ドサッ。

仁『ん?』
振り返ると先ほどまで元気であった座敷娘が倒れている。
仁『どうした!大丈夫か!』
よ『は・・春風様・・・くるしい・・・』
座敷娘はそのまま気を失った。
仁『よめ!よめーーー!!!』

つづく。

ちょ~ん♪(拍子木の音)