浪人仁さんふらり日記

殺陣好きの役者にござる。拙者が興味を持った事を江戸言葉を交えながら記述致すでござる。

仁さん夢物語☆拾壱 『名前』

昨日の夕刻の雷雨は凄まじかった。
強風が黒雲を呼び嵐が来るぞ!と言わんばかりに"天の剣"が空を切り裂いた。次いで大粒の雨が降り注ぐ。
嵐が去るまで一刻ほど。
その間に幾度も巨大な雷(いかづち)が轟音を轟かせ暴れまわった。
その迫力に恐怖しつつも憧れすら抱いてしまう。
大自然の前では人など小さきものでござるな。
いや誠に見事な雷様であった!

おへそ取られちゃう(笑)

では『夢物語』始まりでござる☆

ちょ~ん♪(拍子木の音)


拾壱話 『名前』

『納得できませぬ!』
そう言ったのは拙者の家に居候している妖怪”座敷娘”である。
この”座敷娘”と言うのは元は幸せを呼ぶと言われる妖怪『座敷童』だったのだが、どういうわけか成長してしまい行き場を失ったらしい。
それで妖怪の間で評判がいい(なぜ妖怪に評判がいいのかわからぬが)拙者の家に突如押しかけ無理やり棲みついてしまったのだ。
初めは家出娘か何かだと思い番屋に引き渡そうかと思ったのだが本物の”妖怪”ではそれも叶わぬ。困ったものである。
話を戻す。
先ほど町道場での雇われ指南から帰ると何時もの様に部屋の真ん中に”ねこ(へんてこな生き物)”とともにちょこんと端座する座敷娘が出迎えた。
ただいつもと違うのはなぜか不機嫌で『お帰りなさいませ』の代わりに『納得できませぬ!』と言われたことだ。
仁『は?』
娘『は?ではございませぬ!納得できぬと申したのです!』
仁『いやいや、何のことかさっぱりわからぬ。』
娘『名前でございます!』
仁『なまえ?』
娘『春風様は、もじゃちゃんに『ねこ』と言う立派な名前をおつけになってます。それにひきかえわたくしは、
ここに来てもうひと月にもなろうかと言うのに未だ名もなく、お呼びになるときには娘、娘と。口惜しゅうございます・・・』
そう言いながら座敷娘は目に涙を滲ませている。
・・・面倒くさい。
娘『めんどくさいと思いましたね。』
仁『⁉』
こ奴、人の心を読むのか・・・(-_-;)
仁『い、いやすまぬ。妖怪に名があるとは思わなんだ。てっきり座敷娘が名とばかり思っておった。』
娘『ございますとも!例えば、ゲゲゲの鬼〇郎とかゲゲゲの鬼〇郎とか、あとゲゲゲの鬼〇郎とか』
仁『みな一緒じゃな。』
娘『兎に角わたくしも名前がほしゅうございます!春風様、どうかわたくしにも良き名前をおつけくださいませ!』
仁『よわったのう。人(妖怪)の名など考えた事もないからのう・・・。』
娘『さ、春風様。』
仁『う~ん。』
娘『わくわく』
仁『う~ん。』
娘『わくわく』
仁『ぬうううううううう。』
娘『春風様、はやくー!』
仁『そう急かすな。今思案しておる。』
娘『春風様!』
仁『あ!”よう”はどうじゃ!』
娘『いやです。』
仁『では”かい”』
娘『いやです!妖怪の文字をばらばらにしましたね。』
仁『名をつけるなど向かぬのじゃ。あれ(へんてこな生き物)に”ねこ”とつけるくらいじゃぞ。』
娘『春風様ならできます!わたくしの為に良き名前を!』
仁『む~ん。そう言われてもの~・・・』
娘『春風様、しっかり!』
仁『ようかい・・・ざしきわらし
娘『娘です。』
仁『お!頭文字と言葉尻をとって”よめ”!』
娘『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
仁『いや、ないなこれは。無いない・・・』
娘『頂戴いたします!』
仁『は?』
娘『ありがとうございます、春風様!』
仁『え?え?』
娘『”よめ”。”よめ”。”よめ”。ああ~なんと心地よい響き。まるで春風様の奥方になったよう。』
仁『い、いやいや待て待て!はやまるな!その名はよせ!もっと良い名を考えるからしばし待て!』
娘『いいえ。わたくしはこの名前が気に入りました。ほかの名前などいやでございます。』
仁『いや待て!その名ではまた面倒なことに・・・』
娘『今日これよりわたくしの名は”よめ”にございます。不束ではございますがどうぞ末永くよろしくお願いいたします。』
仁『いや待て、待てというに!その名では・・・』
そこへ先見屋が元気よく戸を開ける。
先『旦那いらっしゃいます~☆』
仁『⁉』
先『あーいたいた。”黒い雷”っていう異国のお菓子もってきましたよ~。』
仁『・・・』
先『どうしたんです?石みたいに固まっちゃって。』
仁『ん。いや、何でもない。』
考えてみればあの娘は滅多に人前に姿を現すことはない。ならば人前で名を呼ぶ事も無い。
そうだそうだ。
さして気にすることでもないな。
先『どしたんです旦那。いつも以上に変な顔しまくって。』
仁『余計なお世話じゃ!』
先『?????』
仁『ほう。これが”黒い雷”か。成程、真っ黒じゃな。まさか口に入れると”せっけん”のときの様になるのではあるまいな。』
先『やだな旦那。そんな昔の事覚えてたんですか。大丈夫ですよ。おいしいですからどうぞ。』
仁『かたじけない。』
”黒い雷”を口に入れると今までに味わったことのない砂糖とは違う甘さが口の中に広がる。少し苦みがある。
噛んでみるとサクサクとまるで麩菓子のような歯ごたえの物が練り込んである。
旨い。
例えるなら”軽いかりんとう”と言ったところか。確かに衝撃的である。
先『ところで旦那。この間の娘さん、どちらさまです?』
仁『ぶー!』
先『わー!』
仁『む、むすめ。』
先『(拭き拭き)もったいないな~もー。』
仁『む、む、娘とは何の事じゃ。』
先『え~。ほらこの間”のノ字”と宴会やった時に居た娘さんですよ。酔っぱらってたんでよくは覚えてないんですがね。か~わいい娘さんだったな~。あたしお酌してもらったんですよ☆どこの誰なんです。この長屋の娘じゃないですよね。』
仁『い、いや覚えておらんな。』
先『何言ってんですか。旦那の横にピッタリくっついてたじゃないですか。あ~☆ひょっとして旦那のこれですか。』
仁『たわけ!』
先『冗談ですよ冗談。あーあ。いたらこれあげようと思って持ってきたんだけどな~。』
仁『なんじゃそれは?』
先『へっへっへっ。こいつはね異国のお菓子の中でも極上の、それも貴族・・・旗本以上じゃないと口にできない”ケーキ”っていう名のお菓子です。あま~くてフワッフワでほっぺたおっこっちゃいますよ☆』
仁『ほーう。』
先『あげませんよ。でもなー。いないんじゃなー。』
娘『ここにおります。』
そう言って座敷娘改め”よめ”が縁側に姿を現した。
仁『なに⁉』
先『あ~娘さんいたー♡もー旦那。いるならいるって言ってくださいよー。人が悪いなー。』
仁『・・・』
先『この間はど~も~。先見屋と申します。これ。異国のお菓子で”ケーキ”って言います。お近づきのしるしにどうぞ☆』
よ『まあ。これは御丁寧にありがとうございます。わたくし春風様のお屋敷に御厄介になっております”よめ”にございます。』
仁・先『⁉』
先『よ・め。』
拙者と顔を見合わす先見屋・・・。
仁『待て先見屋!これにはわけが・・・!!!』
拙者が止めるよりも早く先見屋は風の様に表へ躍り出た!
先『皆さん聞いてください!春風の旦那が奥方様を娶られましたよー!!!』
長屋の住人達『ええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!』

この後長屋の住人をはじめ大家、町名主、行きつけの飯屋、呉服屋、果ては定廻りの同心までもが挨拶やら祝いの品やらをもって訪れた。
そのたびに壱からあれこれと事情を話し誤解を解くのに苦労したことは言うまでもない。
まあ流石に本当のところは話せないので昵懇にしている者の娘で仔細は言えぬが暫く預かることになった。と言う事にしている。
それでどうにか収まった。
ただこの先思いやられるのは”座敷娘”のことがみなに知れ渡った事である。

ちょ~ん♪(拍子木の音)

ではまた次回☆
これにて御免!