浪人仁さんふらり日記

殺陣好きの役者にござる。拙者が興味を持った事を江戸言葉を交えながら記述致すでござる。

仁さん夢物語☆二十三 賊

皆様ごきげんよう
お元気でござったか?
拙者は何時もの如くバタバタとしていてふと気づけば夏も終わりもう秋!の、はず(陽射しが強い☆)。
やりたいことの半分もできず『ぼけ~☆』と空を眺める今日この頃でござる( ´∀` )ぼけ~♡
然らば
『夢物語』
始まりでござる☆


錦『春風様。どうぞお召し上がりください。』
そう言い膳を運んできたのは錦屋の主(名は忘れた)である。
膳には酒とアテにしては豪華な御造りがのっている。
拙者はゴクリと唾を飲み込んだ。
仁『心遣い忝い。折角だが酒を飲んで後れを取ったとあっては面目がたたぬ。これは遠慮いたそう(涙)かわりに茶をくれ。』
錦『これはわたくしとしたことが。すぐにご用意を。』
そう言うと錦屋の主はそそくさと膳を下げていった。
ここは錦屋の奥座敷である。何を隠そう拙者は今、錦屋の用心棒をしている。というか、させられている。
話せば長くなるのだが、ここ最近、世を騒がせる盗賊が現れた。
賊は決まって大店ばかりを狙い恐ろしいことに人死も出ている。どうやら急ぎ働きで荒稼ぎをする乱暴な連中のようである。
急ぎ働きとは押し込み強盗の事である。
奉行所は勿論、火盗改め(火付け盗賊改め)も出張ってはいるが一向に賊の尻尾すら掴めない。
そうこうしているうちにまたしても賊が現れた。狙われたのはこの錦屋からそう遠くないところにある油問屋『あぶら屋』である。今度の所業は一番酷く主夫婦は勿論下男下女に至るまで皆殺しにされていた。
この事件を機に大店に限らずそれなりに繁盛している店は“用心棒”を雇いはじめた。町道場の師範や腕が立つと噂の浪人を先を争い雇いいれる。運良く大店に雇われれば金に糸目はつけぬし毎日豪華な食事でもてなしてくれる。雇われる側にしてみれば有難い事この上もなく、雇い手にしてみれば自らの命が掛かっているから必死である。
この話を聞き付け江戸中の浪人達が色めいた。自ら売り込みをする者もいるが、そう言う輩は大概食い詰め者で金と飯だけが目当ての為たいして働かない。剣の腕もからっきしでまことに嘆かわしい。
良くも悪くも“泰平の世”。侍が腑抜けになるには十分な緩さである。

さて、拙者の話しであるが。
別段金にも飯にも困っておらぬし賊は兎も角用心棒の話など何処吹く風ぞだった。
だったのだが・・・
☆ここから回想♪
今宵は仲秋の名月。天気も良さそうだし縁側で月を眺めながら酒でも飲むかとそんなことをぼんやり考えながら何時もの見廻り(散歩)から長屋に戻ると
よ『春風様!こんな大事なときに何をなさっておいでですか!』
・・・座敷娘にいきなり叱られた。
仁『何って何時もの見廻りじゃが。』
よ『こんな一大事に何を呑気な。さ、参りますよ!』
仁『参りますって何処へ???』
よ『錦屋様です。』
仁『錦屋?なにゆえ?』
よ『決まってます。用心棒です。』
仁『は?』
☆回想終わり♡

そんなわけでここにいる。
庭先から虫の声が聞こえる。
錦『お待たせ致しました。』
錦屋の主が茶を運んできた。
錦屋の目の下に隈が出来ている。おそらくはここ数日まともに寝ていないのであろう。いつ賊に狙われるか分からぬから致し方ないが。
錦『春風様が用心棒をして下さると聞いたときは本当に嬉しゅうございました。春風様がいて下されば鬼に金棒。これで安心して商いが続けられます。』
仁『・・・』
拙者が言い出したわけではないが。
錦『実は酒井様にも相談したのですがお役目の方が忙しく手が回らぬと言うことで。どうしたものかと思案したところ酒井様から用心棒を雇ってはどうかと言われまして。ですが私にはそんな当てもなく、そうしたら酒井様がすぐ近くにうってつけの方がいると春風様の名を。』
仁『・・・(酒井め)』
酒井と言うのは南町奉行所の同心で、ちょいちょい出てくる変わり者である。
錦『丁度そこにおよめさんが遊びに来られまして。』
仁『よめが。』
“よめ”とは拙者の家に棲みついた“座敷童子”の事である。座敷童子と言っても幼子の姿では無く十六、七くらいの娘の姿をしている。この座敷娘のお陰でいろいろと騒動があったがいまは落ち着いている。
錦『およめさんに用心棒の件をお話しすると二つ返事でご承知下さり『春風様は困っている人を決して見捨てたりはいたしません。すぐにつれて参ります。』と。いや~本当に安心致しました。春風様。改めて御礼を申し上げます。』
錦屋は深々と頭を下げた。
仁『そんなとこよりお主あまり寝てないのであろう。拙者のことは良いから休むがいい。』
錦『流石は春風様。まことにその通りで。賊が現れて以来心配で心配で、物音がするたびに目が覚めてしまって。』
仁『分かった分かった。後は拙者に任せ早く休め。』
錦『ありがとうございます。ではお言葉に甘えて。』
そう言うと錦屋の主は下がっていった。
やれやれ。そう言ういきさつであったか。

初秋とは言え夜は大分冷える。
障子を開けるとひんやりとした空気が流れ込みかすかに吹く風が虫の声をはこんでくる。
仁『いい月だ。』
空にはぽっかりと月が浮かんでいる。
まさかこんなことになるとは思ってもいなかったが、どうやら“仲秋の名月”は拝むことが出来た。
熱いうちに茶を頂こうと湯飲みに手を伸ばすとその横に山積みされた“とらやの羊羹”が!
流石錦屋。甘い物好きの拙者に大店らしい粋な計らい☆
では早速と湯飲みに手を伸ばす、手を伸ばす、手を・・・湯飲みがない???
よ『夜は冷えますね。こんな時は熱いお茶が一番。ね。春風様♡』
仁『うおっ!?よめ!いつのまに???』
先にも申したが“よめ”は妖怪座敷娘(童)である。
よ『お一人では寂しゅうございましょうからせめて話し相手にと思いまして。私も御一緒いたします。ね、春風様♪』
厄介事が増えた。


然らば今日はこの辺で。
これにて御免☆

ちょ~ん♪(拍子木の音)