浪人仁さんふらり日記

殺陣好きの役者にござる。拙者が興味を持った事を江戸言葉を交えながら記述致すでござる。

仁さん 夢物語☆ 二十一 坊主

お待たせいたした―!!!
いや、私事にてしばしドタバタしたり現実逃避したり・・・
今し方ようやく『はっ⁉わたしはなにを・・・!!!』
と。正気に戻った次第。
まだまだ修行が足らぬな。
と言うわけで。
今から半年ばかり遡り続きと参るでござる!

さ~てお立合い!
『夢物語』久々の始まり始まり~、でござる☆
ちょ~ん♪(拍子木の音)

ここは拙者の家(長屋)である。
例の如く狂喜乱舞の宴が行われている。
先見屋、片桐をはじめ、佐吉に伝吉親分、南町の同心酒井、錦屋の娘すみ、ほかにも長屋の連中がとっかえひっかえ新年の挨拶に来てはそのまま宴に混じっている。この狭いところに。文字通り"鮨詰め"になっている。
その中に当然の様にあの"のねずみ小僧"もいる。
酒井(南町同心)と伝吉(岡っ引き)がいるにもかかわらずだ。
この"のねずみ"の周到と言うか小癪なところは『安来節(やすきぶし)』を踊りながら入ってきたことだ。
皆、酒も入っていたことだし大いに盛り上がりあっという間に人気者になってしまった。安来節とは考えたものだ。これなら頬被りをしていても誰も怪しまない。盗人のくせに岡っ引きの伝吉と馬が合うらしく肩を組んでわらべ歌を熱唱している。
まったく大した奴だ。
この宴が大盛り上がりなのにはもう一つ理由がある。
何時も娘が世話になっていると錦屋の主が上等の酒と御馳走を差し入れてくれたのだ。(世話になっているのはこちらの方だが)
これは誠に有難い。座敷娘(よめ)に感謝せねば。
錦屋の主は挨拶を済ませると大急ぎで立ち去った。新年の挨拶回りやなんやとてんてこまいのようだ。
大店ともなると大変じゃな。
さて、宴である。
時が経てばたつほどに大騒ぎとなった。これも何時もの事である。
みなが大いに飲み、食い、笑い。
酒をなめながら楽しそうにしている連中を眺めているだけで何か楽しくなってくる。実に良いものである☆
よ『春風様。どちらに行かれるのですか?』
仁『うむ。ちと飲み過ぎた。少し風にあたってまいる。』
よ『ではわたくしも♡』
佐『よ!ご両人!おあついね~☆』
先『あ~旦那ずるいですよ~。およめちゃん独り占めにして~ひっく。』
の『やかないやかない。さ、ぐ~といきやしょう☆』
先『およめちゃ~ん、早く戻ってきてね~。ひっく。』
よ『は~い♡』
男衆『うはっ!かわいすぎ♡♡♡』
男衆、心の臓を撃ち抜かれひっくり返る。
湧き上がる大爆笑。
その笑の中、拙者と座敷娘は外へ出た。
昼前に始まった宴だったが気が付けばもう日が傾き始めている。
初春とは言え寒さは厳しい。吹き抜ける風が身に応える。
河『おい。』
と、そこに河童(座敷娘の父)がいた⁉
仁『ぬあ!!!』
河『何が『ぬあ!!!』じゃ。わざわざ新年の挨拶に来てやったのに無礼な奴め。』
雪『仕方ありませんよ。あなたの顔は怖いですから。』
河『かあちゃんそりゃないよ~。』
よ『とおさま、かあさま!わざわざお越し下さったのですね☆こちらから参るつもりでしたのに。』
河『なあに新年の験を担ぐにはお前の顔を見るのが一番じゃと思うてな。そこのバカはどうでもいいが。』
・・・相変わらず嫌な奴だ。
このバカッパ(河童)と雪女は座敷娘の育ての親、である。まあ妖怪の世界も色々複雑だと言う事だ。
雪『ほらあなた。そんなことを言いに来たのではございませんよ。』
河『ああそうだった。この阿呆(拙者)の面を見たらついな。』
斬り捨ててやろうか。
河『ごほん。よめ。新年おめでとう。』
雪『おめでとう。』
よ『とうさま、かあさま。新年おめでとうございます♡』
河『おいそこのバカ。ぉ‥‥‥ぅ。』
仁『お?う?ん???』
河『ふん!』
ゴツ!(雪女が河童の頭を拳骨で殴る音。)
河『かーちゃん痛い!』
雪『申し訳ありません春風様。この人(妖怪)ひねくれもので。新年の挨拶に行こうと言い出したのはこの人(妖怪)なんですよ。なのにこの人(妖怪)ときたら。』
河『勘違いするな人間!わしは”よめ”に会いに来たのだ。お前などどうでも』
ゴツ!(雪女が河童の頭を拳骨で殴る音其之二)
河『〇X△※◇!!!』
雪『春風様。新年おめでとうございます。』
仁『うむ。おめでとうでござる。』
雪『これからも”よめ”のことよろしくお願いいたします。』
仁『心得た。』
河『人間。よめに手を出したら容赦せんぞ。』
仁『・・・(出すか阿呆)』
河『なんだその目は!人(妖怪)をバカにしたように見おって!このダメ左衛門が!』
仁『誰が”ダメ左衛門”じゃ!このバカッパが!』
河『このダメ左衛門め!皿割るぞ!』
仁『拙者に皿など無いわボケガッパ!』
河『だーれがボケガッパじゃボケ左衛門!』
雪『おほほほ。新年早々仲のおよろしい事で。』
仁・河『どこがだ!』
騒ぎに気付いたのねずみが中から声をかけてきた。
の『旦那~お客さんですかい?』
先『およめちゃ~ん、早く戻ってきてぇ~ういっく。』
の『あーもう。先見屋の旦那飲み過ぎですぜ。』
河『ふん。人間はいつでも騒がしいの。』
雪『さ、あなた。そろそろ参りましょう。』
よ『え~、もう行ってしまうのですか。折角来たのですから上がっていって下さいませ!』
雪『ありがとう。でもそうもいきませんよ。ほら。』
よ『あ。』
拙者は雪女の冷気にあてられ凍りついていた。
河『ふん。これだから人間には困るのだ。』
雪『あなたも半分凍ってますよ。』
そんなこんなで二人は帰って行った。
やれやれ。
朱に染まる夕焼けに、二人(?)の後ろ姿がにじんで見える。
座敷娘はいつになく寂しそうに見送っている。
仁『帰って良いのだぞ。』
よ『え・・・いえ。まだ帰りませぬ。』
仁『人の世よりあちらで二人(?)とともに暮らした方が良いのではないか?』
よ『なぜそのようなことをおっしゃるのです。私の事がお嫌いですか?』
仁『いやそのようなことは。』
よ『私はここに居たいのです。時が来れば帰ります。』
仁『・・・(時が来れば、か。・・・・・いつ???)』
よ『そう言えば!新年のご挨拶がまだでしたね☆』
仁『そう言えばまだだったような・・・』
よ『春風様。新年おめでとうございます。これからもよろしくお願いいたします♡』
仁『・・・ふ。新年おめでとう。こちらこそよろしくお願い致す。』

チリーン

鈴(りん)の澄んだ音が響き渡る。鈴(りん)とは僧侶の持つ小さな鐘のようなものである。
音のした方に目を向けると夕日を背にぼろぼろの法衣を着た旅の僧らしき姿があった。異様なのは背に刀を背負っていることだ。
仁・よ『?』
僧『さあて。そろそろ目を覚まさねえかい。お嬢ちゃん。くっくっくっくっくっ。』
そう言うと徐に懐から”独鈷”を取り出した。
ズザザザー!
ね『シャーーー!!!』
押し入れに閉じ籠っていたはずのねこ(ヘンテコな生き物)が勢いよく現れ坊主の前に立ち塞がった!
いままで聞いた事もない唸り声をあげ威嚇している。
よ『もじゃちゃん!』
仁『ねこ!』
僧『へ~、いつかのへんちくりんな奴か。折角見逃してやったのにわざわざ出てくるとは。まあいい。調伏してやる!喝!!!』
ズゴン!
ねこ(ヘンテコな生き物)は坊主の”法力”で吹き飛ばされた!
ね『ふぎゃ⁉』
よ『もじゃちゃん!!!』
仁『ねこ!貴様何者だ!いったい何の真似だ!』
僧『ははは。ただの坊主ですよ春風の旦那。』
仁『なぜ拙者の名を・・・ぬ⁉その背の刀。貴様が先見屋達の言っていた・・・。』
僧『旦那。その娘を私に下さいよ。』
仁『何。』
僧『わたしの生業はね、経を上げる事じゃない。化け物を退治することなんですよ。旦那もご存じでしょう。その娘が人じゃないって。だから私に下さいよ。』
仁『断る。』
僧『けひひひ。言うと思ったぜ。おいサンピン。その娘の正体知ってんのかい。』
仁『知らん!』
僧『へ。あはははは。まったく呆れた奴だぜ。いいかよおく聞きな。その娘はなあ、今でこそ美しい娘の姿をしちゃあいるがその正体はとんでもねえ化け物なんだぜ!』
仁『(今迄あった事を回想中)うん。知ってる。』
僧『そっちじゃねえ!』
よ『春風様!(怒)』
僧『ちっ、埒が明かねえな。手っ取り早くやるか。』
仁『やめろ!』
僧『オン!!!』
よ『きゃあああああ!』
法力の光が座敷娘を包み込む。
仁『よめーーー!』
僧『ははは。正体を現せ化け物ー!ははは!』
よ『(きょとん)』
仁・僧『え?』
僧『そ、そんな馬鹿な!この術にかかって正体を現さぬなど・・・』
仁『何ともないのか?』
よ『目が眩みました♡』
僧『えーいこうなったら!オン!おん!!ON!!!』
ピカッ!ピカッ!ピカッ!
よ『???(きょとん)』
僧『はあはあ。きょ、今日のところはこのくらいで勘弁してやる。さらばだ。』
そう言い残し僧は去って行った。
よ『あの方、わたくしのこと”美しい”と(ぽっ♡)』
仁『戯け!ほっぺた赤くしてる場合か!大丈夫なのか!』
よ『はい。なんともありません♡』
仁『ホントにホントだな!何ともないのだな!』
よ『うふふ。嬉しい。春風様がこんなに心配してくださるなんて♡』
仁『当たり前だ!あんな得体のしれぬ奴に術をかけられたのだぞ!何とも無い方がどうかしておる!』
よ『わたくし丈夫なのですね。感心感心☆あ!もじゃちゃん!』
ね『にゃ~♡』
ねこ(ヘンテコな生き物)は何時もの様に座敷娘に飛び付いて来た。
よ『よしよし。もお大丈夫だからね。』
仁『ふ~。それにしても』
あ奴はいったい・・・。
幸いこの騒ぎに誰も気付いていなかったのでそのまま宴に戻った。
座敷娘はまるで何事もなかったかのように何時もの様にはしゃいでいる。ねこ(ヘンテコな生き物)はと言うと、流石にまだどこか不安気で時折外を気にしている様子だ。
半日以上続いた宴もお開きとなりそれぞれ帰る場所へと消えていった。
しかし今日は疲れた。早く休むとしよう。
座敷娘は後片付けをしている。ねこ(ヘンテコな生き物)は押し入れで寝ているようだ。
仁『片付けは明日でよい。今日は疲れたであろう。もう休むとしよう。』
よ『はい。ではご一緒に♡』
仁『た、たわけ!いいから早く寝ろ!』
よ『うふふ♡』
まったく。心配してやっておるのに。やれやれだ。

ドサッ。

仁『ん?』
振り返ると先ほどまで元気であった座敷娘が倒れている。
仁『どうした!大丈夫か!』
よ『は・・春風様・・・くるしい・・・』
座敷娘はそのまま気を失った。
仁『よめ!よめーーー!!!』

つづく。

ちょ~ん♪(拍子木の音)