浪人仁さんふらり日記

殺陣好きの役者にござる。拙者が興味を持った事を江戸言葉を交えながら記述致すでござる。

仁さん夢物語☆十七『続・親』

f:id:ookamizamurai:20201118201805j:plain

季節は秋。
今日は誠にいい天気で朝から青空が広がり暖かな陽射しで正に秋晴れでござった。
秋と言えば紅葉。
紅葉や銀杏が色づき山々を華やかに飾る。
拙者は銀杏が好きでござる。
黄色い葉が青空によく映える。
黄色い絨毯を敷き詰めた銀杏並木を歩いていると何とも言えぬ幸せを感じる☆
銀杏の実は恐ろしい香りを放つがなんのそれもまた一興☆
f:id:ookamizamurai:20201118201617j:plain

さて。
『夢物語』始まりでござる。

ちょ~ん♪(拍子木の音)

天高く馬肥ゆる秋。
空は高くなり食べ物が美味しい季節である。
栗飯にキノコ汁。牡蠣に秋刀魚。考えただけでもよだれが出る。
そんなわけで”座敷娘”は錦屋の娘を伴い『秋の味覚』を堪能しに出かけている。
ねこ(ヘンテコな生き物)はあれ以来どこか落ち着かぬ様子で枕屏風の陰や押し入れの中に入り込んでいる。
それはさておき。今宵は少し贅沢に秋刀魚で一杯やるか。
そんなことを考えていると珍客が訪れた。
一人は齢で言えば四十半ば。気難しそうな男で、髷は結わずに総髪の撫で付け髪。口髭を蓄えており、よく言えば儒学者、悪く言えばインチキ易者と言ったところか。
連れの方は男の女房で齢は判らぬ(年齢不詳)が雪のように白い肌で妖艶な色香を漂わせている。透き通るような美人である。男とは真逆に微笑みを浮かべている。
だがどちらも人ではない。
察しの通り”河童”と”雪女”。”座敷娘”の親(育ての親、と言った方が良いか)である。
その証拠に男の頭の上には『お皿』がのっているし女からは凍てつくような『冷気』が流れてくる。
よりにもよって座敷娘が留守の折に来るとは・・・。
やれやれである。
取り敢えず二人(?)を中へ促し座布団と茶を出してみた。

河『娘が世話になっているそうだな。』

河童が口を開いた。
こ奴、儒者を気取っているのか随分と上からの物言いである。
儒者と言うのは儒学者の事で幕府では学問を司っている。孔子の教え(子曰くというやつ)を説いている。
儒者の中には林家のように若年寄と同等の身分の者もいるがそれは人の世での話である。
やれやれ。

仁『さして世話はしておらぬが棲みついてしまったのだ。連れ帰ってくれれば助かる。』
河『なんだと。人の娘を誑かしておいてその言い草はなんだ!』
仁『誑かすだと!』
河『人間風情がわしのむ・・・』

ガツン!(雪女が河童の頭に拳骨をくらわした音)

男『痛い!何をする⁉』
雪『申し訳ございません。うちの人はものの言い方を存じませぬので。大変ご無礼を致しました。』
河『何が無礼なものか!この人間がうちの娘をたぶ・・・』

ゴツン!(雪女が河童の頭を思いっきりぶん殴る音)

河『母ちゃん、皿!皿が!』
雪『自業自得です。失礼いたしました。おほほほ。』

なるほど。座敷娘は母親似か。
座敷娘は拳骨こそ振るわぬが雪女のこの威圧感はあの娘が拙者に無理強いをするときのそれと同じである。

雪『あなた様は確か、春風様。でございましたね。娘がお世話になっております。』
仁『ぬ?・・・いや大した世話はしておらぬ。が、なぜ拙者の名を?』
雪『娘の手紙で。』
仁『手紙。』
雪『御存じないでしょうが、娘はよく手紙をよこすのですよ。』
仁・河(知らなかった・・・)
雪『人の世に出て早々、春風様と言う心優しき方に巡り合えたと。』

巡り合うも何も、あ奴ははじめからここを目指してきたのだが・・・。

雪『おいしい物を食べたとか。人の娘の友達ができたとか。そうそう!この間は『未来国』と言う奇妙な国に行って大変な目にあったとか。それはもう楽しそうに。人の世に行かせて良かったと心から思っております。』
河『・・・』
仁『・・・』
雪『良い所に嫁げて本当によかった。(ホロリ)』
仁・河(ん?)
仁・河『・・・』
仁・河『嫁げて!?』
河『に、に、に、人間、貴様!どどどどどういう事だ!とつ、とつ、とつーーー!!!』
仁『待て、待て、待て!拙者も知らん!嫁に娶った覚えなどない!いったいどこでそうなった!』
雪『あら。手紙には『嫁』と呼ばれていると。』
河『人間きさまーーー!!!!!』
仁『ちがーーーう!』

☆只今大変取込んでおります。暫くお待ち下さい☆

~半刻後~

雪『さようでしたか。ではわたくしの勘違いでしたのね。』
仁『如何にも。誤解がとけて良かった。(あ~疲れた。)』
雪『わたくしとしては残念でございます。』
河『何を言うか!人間如きに娘はやらん。』
雪『人はあなたが思っているほど悪い物ではありませぬよ。』
河『なぜお前はいつもいつも人間の肩を持つのだ!』
雪『あなたが知りもしないで悪口ばかり言うからです。』
河『フン。そうか。お前の一族は人間の男好きだったな。』
雪『氷漬けにしましょうか。』
河『すいません。言い過ぎました。ごめんなさい。』

痴話喧嘩なぞよそでやってくれ。

河『兎に角、娘を人間になぞやらん!』

はなからもらう気などない。

河『大体なんだ、このあばら家は!わしらの屋敷の方がずっといいではないか!』
雪『そうでございますねえ。手紙には”お屋敷”と書いてありましたのに・・・』
河『あーダメだ駄目だ!こんな貧乏浪人など絶対ダメ!』
仁『おぬしら何様だ。』
河『あ?怒ったのか貧乏浪人。このくらいで怒るとはケツの穴の小さい奴だ。』
仁『おのれもう許さん!河童風情が!頭のてっぺん禿げのくせして!』
河『ははーん、これはお皿です。そんなことも知らんのかこのボケ浪人!』
仁『なにを!女の尻に敷かれたバカッパが!』
河『誰が尻に敷かれたバカッパじゃボケ浪人!』
仁『ボケボケボケボケ言わせておけば・・・』
河『言ったがどうしたボケ浪人!ボーケボーケボケ浪人!』
仁『このバーカバーカバカッパめ!』
河『このくそボケあほ浪人!』
仁『おのれ、バカッパ!覚悟いたせ!』
河『やるか!』
仁『やるか!』

スコーン!

仁・河『びくっ!!!』

拙者と河童の間に大きな”氷柱(つらら)”が突き刺さった。

雪『お二人ともおやめくださいまし。大の大人がみっともございませぬ。』

雪女は先ほどと変わらぬ笑みでそう言った。
・・・こわい。

仁・河『すいません。』

座敷娘よ。早く帰ってきてくれ・・・。

つづく。

ちょ~ん♪(拍子木の音)

ではまた次回☆
これにて御免(≧▽≦)☆